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 日本ワインの表示ルールがきょうから厳格化されました。これまであいまいだった「国産ワイン」が、「日本ワイン」「国内製造ワイン」の2つに分けられ、国産ぶどうを使って国内で醸造したもの以外は「日本ワイン」を名乗れなくなりました。
 新ルールの表示が義務付けられるのは生産者に対してですが、販売者に対しても「消費者の方が適切に商品選択を行えるようにするという表示ルールの趣旨を踏まえ、売り場における商品説明やPOP等について消費者の誤認を招くような表示をしないよう」に税務署では協力を求めています。
 さらに、酒屋さんやスーパーなどの酒小売業者の場合はお店(酒類販売場)ごとに「酒類販売管理者」がいて、販売管理研修の受講が義務付けられていることもあって“協力を求める”と言いつつ細かくチェックもできそうですが、飲食店さんまでは目が届かないので、本当に知られるようになるまではまだ時間がかかるかもしれません。

■これまでは■
 一般的に「国産ワイン」と呼ばれていたものには、国産ぶどうのみを原料とした「日本ワイン」のほかに、輸入の濃縮果汁を発酵させてワインにしていたものや、コンテナのような大きな容器で輸入したワインを日本国内で瓶詰めしたものなども混在して、ラベル表示だけではわかりにくいという問題がありました。自主基準として、全国5つのワイン製造者団体(道産ワイン懇談会、山形県ワイン酒造組合、山梨県ワイン酒造組合、長野県ワイン協会、日本ワイナリー協会)で構成する「ワイン表示問題検討協議会」が1986年に「国産ワインの表示に関する基準」を制定していましたが、実情に即した最低限のルールを決めただけでした。

■以前の基準■
 この基準での「国産ワイン」とは【イ)酒税法(昭和28年法律第6号)第3条(その他の用語の定義)第13号に規定する果実酒のうち、原料として使用した果実の全部または一部がぶどうである果実酒(以下「ワイン」という。)で、かつ日本国内で製造したもの。 ロ)イの酒類に本条(3)に規定する輸入ワインを混和したもの。…(3)「輸入ワイン」とは、日本国外で製造されたワインをいう。】(国産ワインの表示に関する基準から抜粋)というもの。
 たしか「国産自動車は国内で製造されたものだけど、鉄鉱石とかは輸入したものでしょ」というくらいの説明だったと聞いたことがあります。ワイン生産者のなかでも多くの異論があり、「完全『国産』主義」(著者嶌村彰禧氏、東洋経済新報社)という本で“表示のカラクリ”が紹介され、話題になったこともありました。  
 この後、日本酒の輸出促進などの“國酒”運動が政治的にも盛んになるなかで、日本ワインも輸出を意識するようになり、いろいろあったうえで「消費者の方が適切に商品選択を行えるよう、表示を分かりやすくすることなどを目的として」(国税庁)ということで、平成27年10月30日に酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律第86条の6第1項の規定に基づく「果実酒等の製法品質表示基準」(平成27年国税庁告示第18号)を制定。3年の猶予期間を経て平成30年の10月30日から実際に適用開始となりました。この表示基準は、国が定める初めてのワインラベル表示のルールとなるそうです。

■新ルールのワインラベル表示■
 日本国内で製造された果実酒・甘味果実酒は全て「国内製造ワイン」で、そのなかでも、国産ぶどうのみを原料とし、日本国内で製造された果実酒だけが「日本ワイン」を名乗れます。それ以外の、濃縮果汁などの海外原料を使用した「国内製造ワイン」は①表ラベルに濃縮果汁使用、輸入ワイン使用などの表示を義務付け②表ラベルに地名や品種等の表示ができない――と定められています。  
 表ラベルでは「日本ワイン」に限り地名、ぶどうの品種名、ぶどうの収穫年を表示可能。
 このばあい、「地名」=「ワインの産地名」(東京ワイン、東京、など)は地名が示す範囲内にぶどう収穫地(85%以上使用)と醸造地がある場合▽「ぶどうの収穫地名」(東京産ぶどう使用、など)は地名が示す範囲内にぶどう収穫地(85%以上使用)がある場合▽「醸造地名」(東京醸造ワイン、など)は地名が示す範囲に醸造地がある場合。  
 「ぶどうの品種名」=「単一品種の表示」(ピノ・ノワール、とか)はその品種を85%使用した場合、「二品種の表示」(カベルネ/メルロー、とか)は二品種合計で85%以上使用し、量の多い順に表示する、「三品種以上の表示」(グルナッシュ/シラー/ムールヴェードル、とか)は表示する品種を合計85%以上使用し、それぞれの品種の使用量の割合と併せて、使用量の多い順に表示する場合。
 「ぶどうの収穫年」=同一収穫年のぶどうを85%以上使用した場合。  裏ラベルでは、一括表示欄に、酒類業組合法及び食品表示法に基づく表示義務事項(①製造者名②製造場所在地③内容量④アルコール分⑤品目)と、消費者保護の観点から表示を義務付ける事項(①日本ワイン②原材料及びその原産地名)の表示を義務付けています。

■ワイン売り場には“お願い”■
 また(参考)という柔らかい表現ですが、「酒類販売業者及び酒類販売管理者の皆様におかれましても、表示基準の適用開始後は、消費者の方が適切に商品選択を行えるようにするという表示ルールの趣旨を踏まえ、売り場における商品説明やPOP等について消費者の誤認を招くような表示をしないようご協力をお願いいたします」として“日本ワインコーナー”などの表示をしっかり表示するように求めています。  
 メーカーがこの表示を違反した場合、注意・指導・勧告・公表などの手続きが取られることがありますが、スーパーなどのワイン売り場には「国産ワイン」の吊り下げ看板などを「撤去しろ」などと強いことは言えず、あくまで「見つけたら声をかける」程度なのだそうです。またレストランのメニューなどは考えてもいないようで、直すのはあくまでお店側の良心に頼ることになるようです。

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■ワイン生産者は■  
 日本のワイン市場は08年から8年連続で成長し、16年にいちど前年割れしましたが、昨年は国産で前年比5%増、輸入で2%増、合計で3%増と再び伸びています。なかでも日本ワインは急成長していて原料ぶどうが足りずにすぐ売り切れる銘柄もたくさんあるようです。  
 この表示厳格化をビジネスチャンスととらえて、大手メーカーでは生産拠点の整備や増強、自社畑の確保に取り組んでいます。
 ワイン最大手のメルシャンはこれまでの拠点「シャトー・メルシャン 勝沼ワイナリー」を今年6月にリニューアル。9月には「同 桔梗ヶ原ワイナリー」を開設。来年秋には「同 椀子ワイナリー」開設を目指して先ごろ起工式を行いました。また、今販売している「シャトー・メルシャン」ブランドのポートフォリオを刷新し、自社管理畑を中心とした主要栽培地に誕生する3ワイナリーを軸に、産地をより意識した商品展開を行っていくそうです。
 サントリーワインインターナショナルでは「登美の丘ワイナリー」の自園畑で甲州種の増産を進めているほか、今年4月には山梨県中央市に農園を開園しています。また昨年に長野の「塩尻ワイナリー」もブランド化を進め、地域の生産者との連携強化で高質ぶどうの確保に取り組んでいるそうです。
 アサヒビールは今年の5月に北海道余市町で自社畑の植樹式を行いました。現在の自社畑4ヘクタールを将来的には10ヘクタールまで広げて、2025年には今の3倍のビジネス規模となるよう取組んでいます。
 サッポロビールは北海道北斗市に、山梨・岡山に続く同社3カ所目のぶどう園を確保。25ヘクタールの大規模農園で、総栽培面積は今の2.6倍に広がるそうです。また「グランポレール」のラベル刷新とポートフォリオ再編を行っています。
 キッコーマン食品では「マンズワイン」で2020年までに長野で24ヘクタール、山梨で4ヘクタールに栽培面積を拡張するそうです。日本ワイン「ソラリス」のポートフォリオ再編にも取り組んでいます。
 大手ビールメーカーさんのほかにも、本坊酒造では昨年11月に「マルス穂坂ワイナリー」をオープンしました。竣工一周年で10月には収穫祭も行い、地元密着で高品質なぶどうの栽培とワインの製造に取り組んでいます。あと、今年7月には北海道ワイン(本社小樽市)の第三者割当増資をサンケイビル(本社千代田区)が引き受けて、資本提携したそうです。他にもワイン生産者の異業種買収とか資本提携とか、知らないだけでいっぱいあるのかもしれません。  
 
 いずれにしても今回、表示がしっかりしたことで信用が高まり、もっとたくさん飲まれるようになるといいですね!