ノンアルビールが広まってくるとともに、これまでの経緯をあまり知らない人も増えてるみたい。新聞記者さんとかから「ビールからアルコール分を抜くとかしてもっとビールっぽいノンアルを出せばいいのに」みたいな声も挙がってきたりするそうですが、それはもうだいぶ前に通り過ぎた道ですから。というわけで自分なりの解釈で、ノンアルコールビールテイスト清涼飲料の世界を振り返ってみました。

 

のんある素材
 
 外のノンアルは、ビールとかワインならアウトバーンぶっ飛ばしても平気っていうところから需要が生まれるはずもなく、主に宗教上の理由から生まれました(アルコール禁止の教義だけど洗礼にはワインが必要、とか)。それに対し日本はといえば、お高いビールの代用品として焼酎に足すシロップ的な使い方(のちのホッピーのような)がありましたが、今の用途に近いものとしては1986年発売の宝酒造「バービカン」が先駆けです。英国バス社に生産委託していたこともあり今思うとそれなりの味だったような気もしますが、それほどのヒットともならず、かといって終売するほどでもなく、2006年に同社がソフトドリンク事業から撤退するまでそれなりに売られていました(日本ビールが譲り受け、のちに「龍馬1865」として販売)。

  初の潮目の変化は2002年。飲酒運転による悲惨な事故があったことから社会的な声が高まり、2002年の道交法改正で飲酒運転の罰則が一気に強化されました。社会的要請があったこともあって取り締まりも厳しくて、警察がゴルフ場の出入り口でしょっちゅうネズミ捕りしてるなんていう話も広がり、オジサンたちは戦々恐々でした。そういう時に始めは輸入業者、のちにビールメーカーやコカ・コーラまで加わりノンアルビール商戦が一気に過熱しました。メタボ検診はもうちょっと後ですが、カロリーオフビールなんかも話題になっていたころで、カロリー面からもノンアルに注目が集まったんですね。

 産の先駆けはサントリーの「ファインブリュー」で、Alc.0.5%だったと思うのですが違ったかもしれません。とにかく酒税法上のAlc.1%未満は酒類ではないというところを根拠に0.3%くらいから0.9%くらいまでのノンアルビールが広まりました。

 この時は大半が「ビール」を作ってアルコール分を取り除くスタイルでした。「発酵」による風味を残しつつ、極限までアルコールを除く工夫がされていました。

 はなぜこのスタイルが国内ではほとんど見られないかというと、主婦連からの訴えに端を発したものでした。曰く「アルコールに弱い人がたくさん飲んだら結局酔ってしまう」と。「10本飲んだら手が真っ赤になった」とか「26本飲むと運転できなくなるほど血中アルコール濃度が上がる」とか「ユンケルのほうが酔う」とかTVで幼稚なやり取りがあったりして、0.1%未満(0.05%とか)の商品も出されたりしましたが、結局のところ日本人っぽい几帳面さで0%でなくては「『ノン』アルコール」とは言えない、ということになってしまいました。

 の局面を打開したのが09年発売の「キリンフリー」。全く発酵させないためアルコールを生成しない0.00%をうたった製品で、「車に乗れるよ」というところを強調するために「海ほたる」まで記者を連れて行って記者会見したりしました。これが第二の潮目です。香料を溶かす溶剤にもアルコールが使われるので0.00%を名乗るのは結構ハードルが高くてその年はキリンの独擅場だったと思います。翌年サントリー「オールフリー」、サッポロ「スーパークリア」発売。2012年アサヒ「ドライゼロ」と続きます。

  の間に飲むほうの意識にも変化がありました。はじめはゴルフ場・クラブハウスとか休肝日とか、おっさんを対象に“飲めないとき・場所にしょうがなく飲むもの”だったのが、“女子も飲めないときがある”(妊娠時・子育て時とか)と対象が広がり、さらに今の狙いは”ローカロリーなので普段使いに飲む”になっています。ソフトドリンクと同じ意識で“お昼に飲む”“仕事中に飲む”という目論見は今のところまだ成功してないようですが、キリンの今回の新商品で意識が変わってくるかもしれません。

 らには、スポーツの後に飲むというところもこれからどうなるか注目です。2018年ごろだったか、ドイツでノンアルビール「エルティンガー」がマラソン大会のスポンサーとなって、競技後の選手にノンアルビールを配っていたというのが話題になりました。ミュンヘン工科大学での研究で「ミネラル吸収効率がスポーツドリンクより良い」という結果が出た(もちろんスポンサー付きでの研究成果ですが)ことを受けての取り組みでした。

  当であれば2020東京五輪でノンアルビールとスポーツを結び付けたPRを、アサヒビールが強力に行う予定だったんじゃないでしょうか。一方のキリンも、去年「カラダFREE」を発表したときに、ゲストのガンバレルーヤ・よしこさんが(24時間テレビでマラソン走者を務めたことに関連させて)「マラソンの給水所にあったらいいですね!」と答えたときに担当者がニヤリとしていたとか聞いたので、仕込みはもう始まっているんじゃないでしょうか。残念ながら東京五輪は延期になってしまいましたが、いざ開催されるときには絶対出てくるでしょう(ところで五輪マラソンは2021でも札幌開催なのかな)。

 お極論すると発酵=アルコール生成なので0.00%のものは全く発酵させていません。つまるところ濃い麦茶を作って酸味料・甘味料・香料・苦味料などでビールっぽい味に調整して、炭酸の泡もビールっぽく残るように調整したものです。ミネラル補給目的なら昔の発酵ものに戻るしかないので、開発する人は頭の悩ませどころでしょうね。

 
ノンアルいまむかし
サントリー ノンアルコール飲料レポート2019より

 ンアルコール・ビールテイスト清涼飲料市場は08年の120万ケース弱(大びん換算)から翌年「キリンフリー」登場で一気に500万ケース越えに。キリン曰くでは「2009年から2019年までの10年間で市場は320%成長、商品数は13から32へと拡大しているそうです。2019年は1950万ケースくらいというから09年の4倍が見えてきています。トップはアサヒビールの「ドライゼロ」。強力な営業とドライっぽいデザインで広く売れています。それを追撃すべくサントリーは「オールフリー」を3月10日にリニューアル。さらにキリンが4月に「グリーンズフリー」を発売して、首位争いがますますし烈になってきています。WHO(今回の件でだいぶ評判を落としましたが)の勧告で「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」が採択されて、世界(特に先進国)はノンアルコールの方向にどんどん向かっていくことが予想されています。一緒に考えること自体どうかとは思いますが、社会環境的にはタバコと同じ道を、少し遅れてたどっていると言って間違いないと思われます。であればマーケット規模はさらに拡大するだろうというのは、業界で一致した考えでしょう。というわけで今年~来年はノンアルビールテイスト市場は、新商品とか販促とか、更ににぎやかになってくると予想されます。

 ンアルコールにかじを取る世界の動きもチャンスです。先に長々書きましたが、日本のノンアルの技術力は世界でも最先端の部類です。なんといっても単なる麦汁を「ビールみたい!」といって飲ませることに成功しているんですから。栄養ドリンク=エナジードリンクの時は後れを取りましたが、今度は行けるはずでしょう。

  なお余談ですが、アンドレアス個人はビールが好きなので正直ノンアルは苦手でした。どうしても酸っぱくって。それが最近飲めるようになってきたのですが、そのきっかけは「これはビールじゃない」と思うこと。「ちょっと味の付いた無糖炭酸」と思ったら意外と飲めるようになったところは、今回のキリンの新商品「グリーンズフリー」の開発の話にも通じるところがあります。一度飲んでおいしくないと思ってる方、「炭酸麦茶」だと思って飲んでみると世界が広がるかもしれませんよ。