新型コロナウィルスで日本国中が大変ななか、「和牛券」とか「お魚券」とか、さらには「消費税減税」とか言われていますが、お酒でも間近に迫った問題があります。それは今年10月に行われる予定の「酒税改正」です。ビールは減税になるからいいとして、“庶民の味方”「新ジャンル」は税金として350ml缶で概ね10円値上げになります。あと、ワインも720ml1本で10円値上げ。たいしたことない気もちょっとしますが、安い輸入ワインに押されちゃってる国産の中小ワインメーカーはどうしても影響を受けてしまうでしょう。酒だけだと、飲まない人からいらないって言われちゃいますが、「(ほおっておくと実行されちゃう)決定事項だけど、延期または見送りは可能」な段階なんだから、政府にはいくつもの激変緩和策の一つとして、ぜひ考えていただきたいと思います。

 

酒税改正
ビール酒造組合税制改正要望より

酒税改正って?

 税収増を目的としていますが、日露戦争のころと違って国税収入における酒税の割合は2%くらいしかありません。でも税収増となれば真っ先に議論に上がるのが酒税。今回はビール・発泡酒・新ジャンルと国税VSビールメーカーで歪んでしまった「ビール」のカテゴリをすっきり一本化させるついでに、安い新ジャンルなんてものはつぶしてしまえという感じで2016年末「平成29年税制改正大綱」で決まりました。

 新ジャンルは増税、しばらくしたら発泡酒もろともビールで括っちゃう。「まあ、ビールは減税してやるからOKしろや」って感じです。あと、「中小零細の国産メーカーが多いからってワインの税金安すぎ。発酵酒なんだから清酒とおんなじだろうが」と言ったのは議員か役人か蔵元か。とにかくワイン増税、清酒減税となりました。さらには「ビール類新ジャンルとは言うが大半はリキュールじゃないか!じゃ、リキュールも値上げするか?」「いやそりゃ困る」等々の綱引きがあって「リキュール(発泡性)①」は6年後に1回だけ値上げ、となりました。

2020年ビールメーカー大手の思惑

 将来的に減税となるビールは発泡酒、新ジャンルが「ビール」でカウントされるので「増える」ということは言えるものの、しょせん数字のマジック。15年連続市場減少はとにかく最優先で何とかしたいところで、「ビール復権」とか「再成長」とか年初から気合を入れています。

ビールトップのアサヒビールは東京五輪ゴールドパートナーを最大限活用して特別ラベル等でとにかく集中。新ジャンルは出遅れ感があるので、掻き回しても影響が少ない“プレミアム”ビールを狙って「ザ・リッチ」を発売しています。

キリンビールもやはりビール集中では「一番搾り」。先にリニューアルしたりしてしっかり準備してきた力をここぞとばかりに開放していくはずです。プレミアムには見切りをつけて、「クラフト」こそプレミアムだもんね、というスタンス。発泡酒№1「淡麗」と新ジャンル№1「のどごし生」は防戦になりますが、新進気鋭のマーケティング部一押しのヒット商品「本麒麟」は将来にわたって生き残らせるブランドとみていると思います。またそのようなお金のかけ方を今年もしています。

サントリービールは、ビールはもちろん”神泡”「ザ・プレミアム・モルツ」。毎回出してくるサーバーも「もういらない」と思いつつも使ってみるとバージョンアップの成果がはっきりわかるのでどうしても手に入れたくなります。泡と言えばプレモルの存在感は今年いっそう強化していくようです。新ジャンル「金麦」も重要商品。CMキャラクターの石原さとみをプレミアムビールから新ジャンルにシフトするほどの力の入れ具合で、サバイバル戦略はしっかり見えてきます。

サッポロビールは元気な「黒ラベル」に引き続き期待をかけています。130年の「ヱビス」がちょっと元気がないのですが、今のところ決定打が見えないのが不安ですね。新ジャンルは弱小なのに押されるという厳しいところですが「ゴールドスター」の出来の良さがどうなるか。確かにおいしいけど、営業力弱いと手にも取ってもらえないから何か一点突破が必要なんじゃないかと思います。

 

酒税改正延長の可能性


 酒税改正が決まった時に、消費者への影響を懸念する声もあり、税率変更の際は「家計に与える影響等を勘案した上で実施する」と明記されました。たしか「リーマンショック級の経済影響があれば検討しなくもない」的な国会答弁もあったように思います。そんなことは起こらないと思ってのコメントだったでしょうが、まさか新型コロナでこんなことになろうとは。よって延長を決める条件はそろっていると思うのです。ただ、業界内がウェルカムかと言えばちょっと微妙かもしれません。改正が決まってから大手の各社は、とにかく10年後(2026年)のことを考えて先手を打ってきました。だからここ数年はずっと「ビール強化」と言い続けてきたはずです。これがいまさら計画変更になったとして、歓迎できるかどうかは疑問です。

 業界別での意見を勝手に考えると、酒税改正実行派(=ビール、発泡酒、清酒、RTD)VS改正延長派(新ジャンル、ワイン)、ウイスキーと焼酎は高みの見物、じゃないかと思います。

 ビールは減税だから。発泡酒はどっちにしろ据え置きだけど、ライバルは新ジャンルなので上がれば自分に有利。清酒はワイン増税賛成だから。RTDは新ジャンル値上げの消費者離れを吸収できるから。新ジャンルとワインは増税の対象だから永遠に延長されればいいと思っているはず。・・・うーん新ジャンルとワインの値上げは避けられないかもなぁ・・・。