「赤酒」は主に熊本地方で古くから飲まれているお酒。液色が赤褐色であることが名前の由来のようです。

【味について】
清酒っぽい感じではあるけれども想像以上に甘い味。正月には屠蘇散をいれてお屠蘇が定番ですが、氷を入れて炭酸割にすると思いのほか美味しくなります。
料理酒としても便利で、みりんと同じように使えます。テリとかはこっちの方がよく出るので、ブリ照りとかいい色味が出ます。お魚の身がしまった感じになるのはみりんの方がいい感じです。
東京住みの私は銀座熊本館で「東肥赤酒」を買うことがありますが、ストレート、炭酸割で飲むほか、料理では茶碗蒸しとかでもいい感じで使ってます。(写真は撮り忘れたので無い!)

【作り方豆知識】
原料はお米で、清酒と同様に糖化と発酵を同時に行う「並行複発酵」法で醸造します。お米のでんぷんを麹菌がでんぷんに分解、そのでんぷんを酵母が食べてアルコールを生成します。漫画「もやしもん」のオリゼーくんとかセレビシエくんの「かもすぞー!」というやつです。糖分とアルコールとアミノ酸が、単に混ぜるのとは違う渾然一体となった甘みと旨みを醸し出します。もろみを搾る際に、強アルカリの灰汁を投入することで雑菌(火落ち菌とか)の繁殖を抑えるので、火入れしなくても長期間保存できるようになっています。

同じもので平安時代から作られているという鹿児島の地酒「黒酒(くろざけ)」、神事で使われるお神酒「白酒(しろき)」などがあり、総じて「灰持酒(あくもちざけ)」と言われています。
みりんに似てて料理酒としても使い勝手がいいですが、みりんは原料がもち米、仕込みは水ではなく焼酎を使うところが違います。
出雲地伝酒」は灰汁を加える製法ですが、原料がもち米なので製法的には赤酒とみりんの中間くらいのイメージ、と思うのはおそらく短絡的なのでしょう。もち米を使った赤酒、ということで考えれば味はおそらくより濃醇な、蜜のような感じなのではないでしょうか(飲んだことないので想像だけですが)。

【歴史豆知識】
熊本のお酒と言えば球磨焼酎と思っていたのですが、伝統的には「赤酒」がお国を代表するお酒なのだそうです。銀座熊本館にはどちらも売ってますけどね。
黒酒、白酒と同様、平安の昔から伝わるお酒だったのでしょう。安土桃山時代に肥後熊本藩の大名となった加藤清正が豊臣家に献上したとか、朝鮮出兵に持って行ったという話も伝わっています。その後に肥後熊本藩を収めた細川家の六代当主・細川重賢公が倹約令で「赤酒」の国外への持ち出し、他藩からの酒の流入を禁じ、保護したそうです。お米をたくさん使うお酒であるため、第二次大戦時には製造が禁じられたこともありましたが、戦後しばらくして復活を遂げました。

ちなみに球磨焼酎は同じ熊本でも南部の人吉藩のエリア。相良氏が鎌倉時代から長く収めているので国自体が違っちゃってます。球磨焼酎のメーカーさんに聞いた話ですが、球磨地方は全域が隠し田で、豊富に取れる米を焼酎造りに回すことができたんだそう。杜氏は薩摩の芋焼酎杜氏が山を越えてきていたんだそうです。

(文・た山アンドレアス)