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焼酎の「光量規制」って


 焼酎(泡盛も)には国税庁「酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達」の、「木製の容器に貯蔵した焼酎等を移出する際にして、当該酒類について日本産業規格に定める吸光光度分析通則に従い、430ナノメートル(nm)及び480ナノメートル(nm)の吸光度をそれぞれ測定し、その着色度がいずれも0.080以下となるもの」という通達による規制があります。簡単に言うと、木樽で長期熟成する焼酎・泡盛は色があまりつかないようにしてね(ついちゃった場合はろ過してでも薄めてね)というものです。一般的には「光量規制」と言われています。
 ほとんどの本では「酒税法」で決まっているとされていますが、実は「法令解釈」の中で制限されているに過ぎません。ちょっぴりマイルドな規制なんです。でも簡単に改正できると思ったら大間違い。これは外務省も絡む“ガイアツ”の産物なので、本則以上に改正しづらいかもしれません。どこの外圧かというとイギリス、ウイスキーとしっかり区別しますよという、サッチャーと竹下登の首相どうしの約束なのです。


当時、「第二次薩英戦争」と言われたこともありました


 1986年から始まったGATTウルグアイラウンド(多国間自由貿易交渉)を日欧で進めるために1988年に竹下登が首相として初めて訪欧した際、英国の経済回復を進めスコッチウイスキーを重要な輸出品目としていたサッチャー首相から「アルコール度数が同じなら税率も同一にするべき」と強く主張されました。
 特にターゲットにされたのが焼酎。焼酎とスコッチの税率は当時24倍の開きがあったそうで、翌年には酒税法が大幅改正されてウイスキー級別廃止による旧特級の大幅減税、焼酎の増税などが図られます。しかしそれでも6倍の差があることから、サッチャーが旗振り役となって欧州と米国が95年に提訴。同年に設立されたWTOの第1号案件ともなり、翌年出された結論から言うと「焼酎とウイスキーは直接競合・代替可能産品であり、アルコール度数当たりで大きな格差がある日本の税率はガット違反なので、税率を同水準にすること」ということになりました。


余計なことを言うとろくなことがない


 この交渉の際に「同種の産品」または「直接競合・代替可能産品」とはならない主張を強くするために「ウイスキーのような”ブラウンスピリッツ”を作る可能性を無くします」と日本側から言い出したものがそのまま残ってしまったのがこの「光量規制」というものなんです。国家間の約束であるとともに、日本自らが主張したものであるだけに扱いがややこしい。

 さらにはその後、ウイスキー減税は当時の超高級品だった輸入ウイスキーが安売り商品としてイメージダウンして市場が縮小する一方で、焼酎が増税の逆風の中で市場を拡大させたため、「繊細さのある焼酎は濃厚な樽の風味は必要なく、あまり強い樽の風味は消費者に好まれないことため、ウイスキーなどと区別するために『光量規制』がつくられた」などという誤解もあるようですね。


GI(地理的表示保護)は武器になる


 世界は「ボーダレス化」で薄れる「地域の個性」を重視する考えが強まる中で、日本酒や焼酎、またジャパニーズウイスキーなどにとってのボーナスタイムが続いています。そうした中で、この稿を書くきっかけとなった2020年11月4日発売の12年熟成麦焼酎原酒使用のリキュール「スリーピーオウル」のような新商品の登場はいろいろ再考するいい機会になるのではないかいと思います。スピリッツ?リキュール?ウイスキー?焼酎?。はたまた700?720?750?、光量規制ってまだ必要?などなど。ジャパニーズウイスキーの定義もまだだけど、早く考えなければならないことは多い、と今回の新商品を見て思いました。